公募追加情報 2020

本内容は、https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3218/に掲載されている、特任研究員・特任助教の公募に関する追加情報となります。

公募の条件の詳細などについてはhttps://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3218/を参照ください (Last update: 2020/Jan/04)。

1. 全般的な追加情報について

公募要項に記載できなかった追記情報についてまとめます。

研究室の全般については、研究室HPを参照ください。

(1) 候補者に想定している知識・技術などについて

定量生物学研究室では、生体における適応現象や情報処理の有する法則と定量的性質を、物理学、数理科学、統計学、情報学、工学、数学などの観点や方法論により明らかにすることを目指しています(Publication list)。

また、定量生物学や理論生物学における数理モデリングや定量データに基づく研究と、生命情報学における統計・機械学習やオミクスに基づく研究の合流ができないか?とも考えて研究を展開しています(下記プロジェクト(1~3)が関連)。

研究室に参画するにあたり、"生物系の知識やこれまでの生物系の研究経験は問いません"。ただし、参画後、生命現象に興味をもって勉強してもらうことを期待します。

下記にあげる研究室での主要プロジェクトは、生命科学的な問題をある程度は数理的課題と方法論に落としこんでいるため、情報系・数理系・工学系・物理系の研究者にも興味を持ちやすく、また取り掛かりやすいものになっているのでないかと期待しています。

逆に本研究プロジェクト遂行には、一定以上の「数理の技術と知識」もしくは「データ解析の技術と知識」(物理や工学、応用数学、生命情報の学位程度)が必要になります。生物系バックグラウンドの方で応募を考えていらっしゃる方は、これらに相当する経験があることが必要になります。

なお、関連する新学術領域「情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理」では、生命系の融合研究に異分野(物理・数理・工学・情報)から参入する若手研究者の育成に取り組んでおり、様々な勉強会やサポートの施策などが計画されています。

(2) 定量的研究に向けた体制について

すべてのプロジェクトにおいて、理論の構築だけでなく実験データなどと組み合わせた検証やデータ解析などを想定しています。これまで生命科学の実験は、物理学や工学と比較して定量性が十分に担保できず、そのため理論との相性が必ずしも良くないという状況がありました。

我々のプロジェクトでは、定量的な生物実験計測を志向する生物物理系の実験研究者を中心として共同研究を行っています。またカバー範囲も、1分子計測やラマン計測などのバイオイメージングだけでなく、次世代シーケンスや定量スクリーニング系など多岐に渡ります。

どのトピックに関してもデータの定量性については最高峰の実験研究者との共同研究が可能となっていると考えています。

(3) 研究室のネットワーキングについて

定量生物学研究室では、以下のような定量的な生命科学研究を志向するコミュニティやグループプロジェクトに主に関わっています:

    1. 定量生物学の会:定量的な生命科学研究を志す研究者の集まり
      • 生物・物理・数理・情報・工学の多様な参加者がいます。小林が2008年の会の立ち上げから関わっています。
    2. 生物物理学会:日本の生物物理学のコミュニティ
      • 本研究室では、年会には例年参加しています。
    3. 数理生物学会:日本の数理生物系のコミュニティ
      • 本研究室では、年会には例年参加しています。
    4. 東京大学 生命普遍性機構:生命の物理的理解を目指す東大におけるバーチャルインスティチュート
      • 前身である「複雑生命システム動態研究教育拠点」から関わっています。
    5. 新学術領域「情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理」:生命の物理的理解を目指す新学術領域
      • 計画班として参画しています。
      • 非平衡理論(沙川研、伊藤研、佐々研)、非平衡物理(竹内研・川口研)、1分子計測(岡田研、石島研、松岡研)、定量生物学(青木研、澤井研、猪俣研)などの多様な研究室と連携してプロジェクトを進めています。
    6. CREST「ライブセルオミクスと細胞系譜解析によるパーシスタンスの理解と制御」:
      • 東大若本研をリーダーとして、ライブセルオミクス技術の開発とそのパーシスタンス現象への応用を目指しています。

また、教育面で応用数学系・工学系・生命情報系・基礎科学系の諸専攻と関連を持っています:

2. 業務内容(プロジェクト)の追加情報

現在、定量生物学研究室では下記のテーマを進めています。

候補者の経験や能力に応じ、以下の1〜2個のテーマに従事していただくことを期待しています。

なお関連キーワードは各テーマと様々な分野との接点を示すために挙げており、実際にはご自身の研究と2個程度のワードとに関連が見いだせれば研究遂行上は問題ありません。

(1) 免疫・嗅覚系の多元分散情報処理の理解と予測

生体は環境から、極めて複雑かつ多様な化学物質の情報を受け取り認識・処理することで、複雑な細胞応答・分化経路の選択(シグナル伝達系)、様々な匂いの認識(嗅覚系)、そして多様な病原体の認識(免疫系)などを行っています。そしてこの多元情報は、多種の受容体や多種の細胞によって分散的に担われています。

本研究ではこの多元分散情報処理過程を理解し、多元入出力関係の予測につなげる理論やデータ解析法の構築を目指します。特に嗅覚系・免疫系は多種の受容体が取得した分散情報をさらにランダムprojectionにより高次元の空間に射影し、そこから化学物質の共通性や分類を行っているという性質があります。このような化学物質認識特有の情報処理ネットワーク構造の機能を理解するとともに、新たなデータ解析方法につなげます。

またこれらの理論予測は、並列したシグナル伝達系の同時イメージング、嗅覚受容体の網羅的応答データ、そして免疫受容体多様性のシーケンスデータなどを用いて検証します。


関連キーワード:多元情報理論、アクティブセンシング、深層学習、グラフ畳み込みネットワーク、ネットワーク解析、時系列解析、情報ボトルネック、1分子計測、次世代シーケンス解析、GPCR、嗅覚、免疫レパトア

(2) ライブセルオミクスによる細胞状態推定とダイナミクスの理解

細胞の"状態"は細胞内の遺伝子発現や代謝状態の総体として定まります。遺伝子発現や代謝を網羅的に計測可能なオミックス技術は細胞の状態を1細胞レベルで包括的に解析できる重要な技術ですが、破壊的計測のため、個々の細胞の"状態"の変化を捉えられないという問題があります。

我々は、小林・若本らが報告したトランスクリプトームとラマン計測の対応関係 (bioRxiv版)を発展させ、ラマン計測情報からオミクスの変動情報を予測するライブセルオミックス技術を確立することを目指します。特に「なぜオミクス情報とラマン計測情報が対応しうるのか」「その背後にある構造は何か?」を統計学・機械学習・学習理論の立場から明らかにし、それをよりよい予測手法の構築につなげることを目指します。

またライブセルオミックス技術を細胞の薬剤耐性現象に応用することで、その有効性を検証していきます。


関連キーワード:低次元化、機械学習、多様体学習、高次元統計、隠れマルコフモデル、深層学習、大自由度力学系、トランスクリプトーム、プロテオーム、ラマン分光。

(3) 細胞系譜に基づく進化や発生メカニズムの理解と予測

生体システムを工学・物理システムと差別化する決定的な特性の一つにシステム(e.g., 細胞)が分裂して倍化し、また状況に応じて死滅する、という性質があります。この自己複製と自然選択の機構は生体システムのあらゆる部分に埋め込まれており、生命の適応性の原動力ともなりまた生体を自己組織的に作り上げるときにも機能します。我々は、細胞の分裂・死滅を経時的に捉えた細胞系譜データを元にして、個々の細胞の状態や適応度、細胞集団としての恒常性や異常性などを解析・予測するデータ解析手法の開発に取り組みます。

細胞系譜データは木構造を持つ時系列データであるため、工学・物理システムのデータとしては一般的でなく、しかしだからこそ新たなデータ解析方法の開発が必要になっています。また潜在的には、複雑ネットワークや社会システムの進化などの問題を扱う上でも現れてくるデータであると言えます。

またその手法を大腸菌やがん細胞を始めとした様々な細胞の薬剤耐性現象、ウィルスの進化現象などに応用するとともに、哺乳類の発生系譜への援用も行うことで胚の発生状態の評価などにも展開することを目指します。


関連キーワード:増殖系の情報熱力学構造、ベイズ的学習理論、量的遺伝学、隠れマルコフモデル、コンピュータービジョン、時系列解析、分岐過程、セミマルコフ過程、大偏差理論、祖合過程、ポートフォリオ理論、薬剤耐性、細胞系譜、発生系譜

3. 研究室メンバーとキャリアパスの追加情報

応募される方への参考情報として、これまで定量生物学研究室に参加された研究員の背景やキャリアパスについてまとめます。

当研究室は過去10年間に計7名の研究者を特任研究員・特任助教として受け入れています。

その多くが他分野から参入しました。具体的には、理論物理学(複雑系)、医療画像解析(工学)、理論物理学(高エネルギー物理)、理論物理学(熱力学基礎論・大偏差理論)、理論神経科学、生物物理学、応用数理(非線形現象)などです。

これらの方々はこれまでに、学振PD、助教(非特任) x 2、特任准教授、政府系研究所 主任研究官(講師・准教授相当)などに転出しています。

また現在定量生物学研究室には、工学(電気系)、数理情報学(情報理工系)、生物情報学、などの分野からの博士前期・後期課程の学生が在籍しています。現在および過去のメンバーについては、https://research.crmind.net/about.html を参照ください。